さらにその先へ!Microsoft Entra ID P2・関連ライセンスで実現する統合ゼロトラスト
前々回、前回の記事で、Microsoft Entra ID Free版・P1相当機能を活用したゼロトラストの基本的な仕組みを紹介してきました。
しかし、実際のセキュリティ運用は「設定して終わり」ではありません。
継続的にリスクを検知し、権限を見直し、環境の変化に合わせて柔軟に対応できる体制こそが、真のゼロトラストです。
この記事では、Microsoft Entra ID P2を中心とした上位機能と、Microsoft 365の関連セキュリティサービスを組み合わせた「統合ゼロトラスト運用」の実践方法を紹介します。
Entra ID P2とは ― ゼロトラストを“自動で運用できる”レベルへ
Microsoft Entra ID P2は、P1の機能をすべて含みつつ、AIによるリスク分析や権限ガバナンスを追加した上位ライセンスです。
「人の判断に頼らない、リスクベースで自動的に制御できる環境」を実現する点が最大の特徴です。
主な機能
- Identity Protection(ID保護)
AIによるユーザー行動分析で、異常なサインインやリスクの高いアカウントを自動検出。
たとえば「普段と異なる国からのログイン」「複数回のログイン失敗」などを検知し、アクセスを一時ブロックできます。 - Privileged Identity Management(PIM)
管理者権限を必要なときだけ一時的に付与(Just-In-Timeアクセス)。
これにより、権限の濫用や乗っ取りによる被害を防ぎます。 - Access Reviews(アクセスレビュー)
定期的にユーザー権限を自動チェックし、不要なアクセスを検出・削除。
部門やプロジェクト単位のアクセスを常に最適化できます。 - Entitlement Management(エンタイトルメント管理)
社内外ユーザーのアクセス要求から承認・割り当て・期限管理までを一元化。
特に外部委託スタッフやパートナー企業との安全なコラボレーションに有効です。
最新ライセンス体系と日本国内の価格目安(2025年時点)
| ライセンス種別 | 主な機能 | 価格(目安/ユーザー/月) | 備考 |
| Entra ID Free | 基本認証・MFA(限定) | 無料 | Microsoft 365契約に含まれる |
| Entra ID P1 | 条件付きアクセス・動的グループ・SSPR | 約 ¥900 | Business Premium, E3 に含まれる |
| Entra ID P2 | リスク検知・PIM・ガバナンス機能 | 約 ¥1,350 | E5, Entra Suite 等に含まれる |
※為替・契約条件により価格は変動します。
日本国内では Microsoft 365 E5 または Entra ID P2 単体契約での利用が一般的です。
Entra ID P2を活用した高度なゼロトラスト運用の実例
1. リスクベース認証(Identity Protection)の活用
従業員のサインイン行動をAIが学習し、「通常と異なるアクセス」をリアルタイムで判定。
危険度に応じて自動対応します。
例:
- リスクが低い → 通常サインイン許可
- リスクが中程度 → MFA要求
- リスクが高い → 自動ブロック
これにより、IT担当者が全アクセスを監視しなくても、安全性を維持できます。
2. 特権ID管理(PIM)による権限リスクの最小化
管理者アカウントを常時高権限にしておくと、乗っ取り時の被害が甚大になります。
PIMを使えば、管理者が操作を行う直前にだけ一時的に権限を有効化し、作業完了後は自動的に解除されます。
さらに、承認ワークフローや操作履歴が残るため、監査対応も容易です。
3. アクセスレビューによる定期的な棚卸し
P2では、特定のグループやアプリのアクセス権を定期的に自動レビューできます。
例えば、「営業部のSharePointアクセスを四半期ごとに見直す」といった運用を自動化可能です。
管理者の確認負担を減らし、不要な権限を放置するリスクを防ぎます。
4. 外部ユーザーとの安全なコラボレーション
プロジェクト単位で外部委託や協力会社が関わる場合、Entra IDのB2B連携とEntitlement Managementを組み合わせると便利です。
- 外部ユーザーがアクセスを申請 → 承認ルールに従って自動承認
- プロジェクト終了後はアクセス権を自動削除
これにより、「終了後もアクセス可能なまま放置」という事故を防止できます。
Microsoft 365の関連サービスと連携して広がるゼロトラスト環境
P2単体でも強力ですが、Microsoft 365全体での連携によって、真に統合されたゼロトラスト環境が実現します。
■ Intune(Microsoft Endpoint Manager)
Entra IDと連携することで、「準拠していないデバイスからのアクセスをブロック」できます。
OS更新や暗号化設定など、端末の状態を常にチェックし、安全なデバイスのみ業務アプリに接続可能にします。
■ Microsoft Defender for Cloud Apps
クラウドアプリ利用を可視化し、シャドーIT(承認されていないアプリ利用)を検知。
アプリ単位の制御やデータ流出防止策を自動で適用できます。
■ Microsoft Sentinel(SIEM/SOAR)
Entra IDのログデータを集約し、異常サインインや内部脅威を可視化。
自動アラートやスクリプト連携で、検知から対応までをスピーディに実行できます。

中小企業における導入・運用の進め方
ステップ1:P1環境の見直しと課題整理
まずは既存の条件付きアクセスやMFA運用状況を確認し、どこに課題があるかを明確にします。
例:管理者権限の常時有効、外部ユーザーのアクセス放置など。
ステップ2:P2機能の試験導入
全社展開の前に、管理者・情報システム部門のみでP2を試験運用。
PIMやIdentity Protectionの挙動を確認します。
ステップ3:段階的拡張と教育
重要部門から順に適用範囲を広げ、同時に社員向け教育を実施します。
「なぜMFAが必要か」「なぜアクセスが制限されるのか」を理解してもらうことが定着の鍵です。
ステップ4:ログ監視と改善サイクル
P2では詳細なログが取得できるため、Microsoft Sentinelなどを使って異常検知・傾向分析を定期的に実施。
「設定 → 運用 → 改善」のPDCAを継続することで、組織のセキュリティレベルを常に最新に保てます。
中小企業が得られる実際の効果
- 不正ログイン検知・遮断の自動化により、運用負荷を大幅削減
- 管理者権限の常時開放リスクをゼロに
- 外部連携時のアクセス管理コストを削減
- 内部統制・監査対応の効率化
- 社員・委託先双方の「安心して働ける環境」を実現
中小企業にとって、これらは「大企業だけの話」ではなく、コストに見合う現実的な投資です。
まとめ:ゼロトラストは“設計から運用へ”進化する
ゼロトラストの最終段階は、「自動で安全を保つ仕組みを運用する」ことです。
Entra ID P2は、そのための最適なプラットフォームを提供します。
Free版で「守る基礎」を築き、P1で「運用を強化」し、P2で「継続的に守る」――。
このステップを踏むことで、中小企業でも大企業並みのセキュリティ体制を実現できます。
「安全に働ける環境」を維持することこそ、これからの時代の競争力。
Microsoft Entra IDの高度な機能を活用し、自社のゼロトラスト戦略を“運用で完成させる”段階へ進みましょう。
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