失敗しないシステム企画・要件定義-AI・DXプロジェクトの作り方

「AIを導入したい」「業務を自動化したい」。
最近では、こうした相談を多くの中小企業から耳にします。しかし、「何をどうシステム化するか」をあいまいにしたまま進めてしまい、思ったような効果が出なかったという声も少なくありません。
本記事では、「ECサイト(ネットショップ)」の立ち上げを例に、中小企業がAIやDX時代にどうシステムの企画・要件定義を進めればよいか、現場と経営層、そして顧客の視点をバランスよく反映した進め方や失敗を防ぐポイントを解説します。
企画・要件定義のスタート:現状把握とゴール設計
システム開発の出発点は「どんな課題を解決したいか」を明確にすることです。
ECサイトを例にとると、「もっと多くのお客様に商品を届けたい」「24時間注文を受けられるようにしたい」「売上データを自動で集計したい」など、目的や現状の困りごとを洗い出すことが大切です。
この時、経営層と現場の役割が分かれます。
経営層は「経営としてどうしたいか」「中長期で会社をどこに持っていきたいか」を言葉にし、
現場は「今の業務でどこが大変か」「どんな作業が非効率か」など、日々感じている問題を出し合います。
現状が分かったら、「このプロジェクトでどうなれば成功か?」を具体的に描きます。
たとえば、「3か月後にはWebからの注文が月50件増える」「在庫確認のための電話対応が半分になる」といった、数字や業務の変化でゴールをはっきりさせましょう。ゴールが曖昧なまま進めてしまうと、出来上がったシステムが「なんとなく便利」では終わらず、「本当に役立つシステム」に近づきます。
「効率化」と「価値創出」のバランスで要件を考える
ECサイトを例に考えると、「スタッフの手間を減らす(効率化)」と「お客様が使いやすい(価値創出)」はどちらも重要なポイントです。
効率化を重視しすぎると、「現場は楽になったけど、お客様にとっては使いにくいサイト」になりがちです。
逆に、「お客様がワクワクする機能をたくさん盛り込もう」としすぎると、現場の負担が増えて運用が続かなくなることもあります。
この2つのバランスをどう取るかを考えることで、長く使えるシステムが生まれます。
たとえば、「商品を簡単に探せる検索機能」や「LINEやメールで注文状況を自動連絡」などは、お客様の満足度を上げる代表的な機能です。
また、「過去の購入履歴からおすすめ商品を自動表示するAI」も顧客体験の向上に役立ちます。AIとは「人の代わりに情報を分析し、最適な提案をしてくれる仕組み」とイメージするとわかりやすいでしょう。
一方、在庫データの自動更新や受発注の自動化、納品書や請求書の自動発行などは、現場の手間を減らし、ミスを防ぎます。
たとえば、手書きや電話で注文を受けていた作業が、「システムに自動で入力される」だけで大幅な時短・省力化になります。
AI・クラウド導入の可否と現場巻き込み
「AI(人工知能)」や「クラウド」という言葉はよく耳にしますが、「とりあえず入れてみよう」という発想だけでは失敗しがちですAIやクラウドは「魔法の杖」ではありません。どちらも「何のために使うのか」を明確にしないと、コストばかりかかって使われなくなってしまいます。
最近ではまずはPoC(Proof of Concept:概念実証)から始めることが多くなっています。PoCとは「まずは小さく試してみる」ことを指します。例えば、「ECサイトの一部の機能だけAIのレコメンドを使ってみる」「クラウド型の在庫管理を1店舗で試す」などです。
PoCを通して、
・本当に効果が出るのか
・現場が使いこなせるのか
・データはきちんと集まるのか
といったことを検証しながら進めることで、いきなり大きな投資をせず、リスクを抑えられます。
また、新しいシステムやAIを導入する際、現場の協力なくしては成功しません。日々の業務で使うスタッフの意見やアイデアはとても大切です。「どんな画面だと使いやすいか」「どの作業が一番手間か」といった具体的な声を集めましょう。
現場のスタッフが「自分たちも作る側だ」という気持ちになれば、自然と前向きな意見や工夫も生まれてきます。

業種を超えた活用例・要件定義の失敗談
ECサイトの事例だけでなく、飲食業なら「ネット予約システム」、製造業なら「生産管理システム」など、どの業種でも要件定義の進め方は同じです。
飲食店であれば、「空席情報をリアルタイムで管理したい」「アレルギー情報を顧客に自動で伝えたい」などが課題となります。
製造業では、「納期管理を自動化したい」「部品の在庫切れを防ぎたい」といった声が出てきます。
こうしたニーズも、「効率化」と「価値創出」のバランスを考え、現場の声を生かした要件定義が大切です。
しかし、「新しいシステムを導入したのに、使われなくなった」という失敗談は少なくありません。
主な原因は、
・現場の業務をよく見ずに“トップダウン”で決めてしまった
・「今ある問題」に向き合わず、“流行り”や“最新技術”を重視しすぎた
・完成したシステムが現場のやり方に合わなかった
といったものです。
たとえば、製造業で「AIによる不良品検出システム」を導入したものの、現場スタッフがカメラの使い方やAI判定の根拠を理解できず、結局人手で確認するようになってしまった事例もあります。
要件定義で大切なのは、「現場・経営・顧客」それぞれの視点をバランスよく取り入れることです。どれか一つに偏ると、結局うまくいきません。
成功のポイントまとめ
システム企画・要件定義は、「最初の一歩」がその後のすべてを決めます。
AIやDXの時代だからこそ、「何のために」「誰のために」システムを作るのかをしっかりと考え、現場の声・経営層の思い・顧客の体験をつなぐことが、失敗しないプロジェクトの近道です。
要件定義は決して難しい作業ではありません。日々の業務の中で感じている「困りごと」や「こんなふうにできたらいいな」を現場から拾い上げ、経営層が「どこに向かうべきか」を示し、顧客にとって「うれしい体験」につなげていく。この流れを大切にしてください。
これからの時代は、AIやクラウドといった「新しい道具」をどう使いこなすかが重要です。ですが、道具を使うのはあくまで“人”です。「技術に振り回されない」ためにも、本質的な課題の整理と、現場や顧客の声に耳を傾ける姿勢を持ち続けましょう。
これらのサポートをご希望の方はこちらからご連絡ください!